【親なきあと対策 第9回】 家族信託という選択肢 ~親が元気なうちだからこそできる、新しい財産管理の方法~
前回は、「負担付遺言・負担付遺贈」についてご紹介しました。
遺言書は、親御さんの思いを形にし、財産を誰にどのように引き継ぐかを決めるために、とても大切なものです。
親御さんから
「私が認知症になったら、この子のためのお金はどうなるのでしょうか。」
「私が元気なうちから、子どものために財産を管理できる仕組みはありませんか。」
「遺言書だけで本当に大丈夫なのでしょうか。」
との声を聞くことがあります。
このような場合に、選択肢の一つとなるのが「家族信託(かぞくしんたく)」です。
近年、相続対策や認知症対策として注目されている制度ですが、障害のあるお子さんがいるご家庭でも活用されるケースがあります。
今回は、家族信託とはどのような制度なのかをご紹介します。
家族信託とは?
家族信託とは、簡単に言えば、「信頼できる家族に財産の管理や運用を託す仕組み」です。
例えば、お父さんが預貯金や自宅を所有していて、
「将来、自分の判断能力が低下しても、子どものためにこの財産を適切に管理してほしい。」
と考えたとします。
そこで、信頼できる長男や長女などに財産の管理を任せる契約を結ぶことで、親御さんが認知症になった後でも、契約内容に従って財産を管理できるようになります。
遺言書との違いは?
「遺言書があれば十分ではないのですか。」
このようなご質問をいただくことがあります。
遺言書と家族信託は、役割が異なります。
遺言書
遺言書は、亡くなった後に効力を発揮します。
「誰に、どの財産を相続させるか」を決めるものです。
家族信託
家族信託は、契約をした時から効力が始まります。
つまり、親御さんが元気なうちから財産管理の仕組みを作ることができるのです。
この点が、大きな違いです。
認知症への備えにもなります
親なきあと対策では、お子さんの将来だけでなく、親御さん自身の将来も考える必要があります。
例えば、親御さんが認知症になった場合、自分名義の預貯金や不動産であっても、自由に管理や処分ができなくなることがあります。
その結果、
・施設へ入るための費用が準備できない
・自宅を売却したくても手続きが進まない
・お子さんの生活費を十分に準備できない
といった問題が起こる可能性があります。
家族信託を利用しておけば、あらかじめ決めた家族が財産管理を行えるため、このようなリスクを軽減できる場合があります。
障害のあるお子さんがいるご家庭で活用される理由
家族信託は、障害のあるお子さんの財産を直接管理する制度ではありません。
しかし、例えば親御さんの財産を活用して、お子さんの生活を支える仕組みを作ることはできます。
例えば、
・グループホームの利用料を支払う
・医療費や生活費を管理する
・自宅の修繕費を支払う
・必要に応じて不動産を売却する
など、契約内容に応じた財産管理が可能になります。
親御さんが元気なうちに準備できることが、家族信託の大きな特徴です。
家族信託にも向いているケース、向いていないケースがあります
家族信託は便利な制度ですが、すべてのご家庭に適しているわけではありません。
例えば、
次のような場合には活用を検討する価値があります。
・不動産を所有している
・親御さんの認知症対策を考えたい
・将来の財産管理を家族に任せたい
・財産管理を柔軟に行いたい
一方で、
・財産が預貯金だけで比較的少額である
・財産管理を特に必要としない
・ご家族の協力を得ることが難しい
という場合には、遺言書だけで十分なこともあります。
制度ありきではなく、ご家庭の状況に応じて考えることが大切です。
家族信託だけでも十分ではありません
家族信託について、「これさえあれば安心」と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、家族信託だけで親なきあと対策が完成するわけではありません。
例えば、
・財産を誰に相続させるかは遺言書で決める方がよい場合があります。
・判断能力が低下した方の身上保護(介護サービスの契約や施設入所の手続きなど)は、成年後見制度が必要になることがあります。
・お子さんの生活状況や支援内容は、「親なきあとノート」に記録しておくことも大切です。
つまり、家族信託は「親なきあと対策」の一つの選択肢であり、他の制度と組み合わせることで、より安心できる仕組みを作ることができます。
専門家と一緒に考えることが大切です
家族信託は、ご家庭ごとに契約内容を考える制度です。
「どの財産を信託するのか。」
「誰に管理を任せるのか。」
「どのような目的で利用するのか。」
によって内容は大きく変わります。
また、法律や税金、不動産登記なども関係するため、ご家庭に合った設計をすることが重要です。
「家族信託が必要かどうか分からない。」
そのような場合は、まずは遺言書や成年後見制度も含めて、全体を見据えながら専門家へ相談されることをおすすめします。
まとめ
家族信託は、親御さんが元気なうちから将来の財産管理について準備できる制度です。
特に、認知症への備えや、お子さんの生活を支えるための財産管理という点では、大きなメリットがあります。
一方で、すべてのご家庭に必要な制度というわけではありません。
大切なのは、「家族信託を利用すること」ではなく、「ご家庭に合った方法で、お子さんの将来を守ること」です。
遺言書や成年後見制度なども含めて総合的に考えることで、ご家族にとって最適な親なきあと対策が見えてくるのだと思います。
次回予告
第10回「成年後見制度とは ~本人の権利と生活を守るための制度~」
「成年後見制度」という言葉は聞いたことがあっても、実際にどのような制度なのかはよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
次回は、法定後見と任意後見の違い、家族信託との違い、そして障害のあるお子さんがいるご家庭で知っておきたいポイントについて、わかりやすく解説します。
