【親なきあと対策 第7回】 遺言書でできること ~障害のあるお子さんがいるご家庭では、遺言書は「なくてはならない備え」です~

これまでは、「親なきあと問題」や「財産をどのように残すか」についてお話ししてきました。
今回は、その中でも特に重要な「遺言書」についてご紹介します。
私は、障害のあるお子さんがいらっしゃるご家庭では、遺言書はなくてはならないものだと考えています。
つまり、「作った方がよい」というよりも、「ぜひ作っていただきたい」ということを伝えたいと思います。
なぜそれほど重要なのでしょうか。

遺言書とは

遺言書とは、ご自身が亡くなった後に、
・誰に
・どの財産を
・どのように相続させるか
を法律に従って決めておく大切な書面です。
遺言書があれば、ご本人の意思を相続に反映させることができます。
反対に、遺言書がない場合は、原則として相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。

遺言書がないとどうなるのでしょうか

例えば、
父親が亡くなり、
・母  ・長男  ・障害のある次男
の3人が相続人だったとします。
遺言書がなければ、相続人全員で話し合いをして財産の分け方を決める必要があります。
しかし、障害の状況によっては、遺産分割協議の内容を理解し、自分の意思を十分に表明することが難しい場合があります。
そのような場合には、成年後見制度の利用を検討しなければならないこともあります。
また、話し合いがまとまらなければ、相続手続きが長期間進まないこともあります。
つまり、遺言書がないことで、ご家族に大きな負担がかかる可能性があるのです。

障害のあるお子さんがいるご家庭では、遺言書が特に重要な理由

理由① 親の思いを確実に残せる

親御さんには、
「この子には安心して生活してほしい。」
という共通した願いがあります。
しかし、その思いを口頭で伝えていても、法律上の効力はありません。
遺言書を作成することで、
「誰に何を相続させるのか。」
「なぜそのようにしたのか。」
という親御さんの意思を、明確に残すことができます。
これは、お子さんへの最後の贈り物ともいえるでしょう。

理由② 兄弟姉妹の負担やトラブルを減らせる

親御さんは、
「兄弟仲が良いから大丈夫。」
と思われることがあります。
しかし、相続は感情が入りやすく、仲の良いご兄弟でも意見が分かれることがあります。
遺言書があれば、
「親はこのように考えていた。」
という基準が明確になるため、相続人同士の話し合いがスムーズになることが期待できます。
結果として、兄弟姉妹の負担やトラブルを減らすことにつながります。

理由③ 生活に必要な財産を確保しやすくなる

例えば、
「自宅は障害のある子に住み続けてほしい。」
「生活費として預金を多めに残したい。」
という希望があっても、遺言書がなければ、そのとおりにならないことがあります。
遺言書があれば、ご家庭の事情に応じて財産の承継方法を考えることができます。
もちろん、相続人には遺留分など法律上の権利もありますので、その点も考慮しながら内容を決めることが大切です。

理由④ 親御さんしかできない準備だから

遺言書を作成できるのは、ご本人だけです。
親御さんが判断能力を失ってしまうと、新たに遺言書を作成することはできません。
そのため、
「元気だからまだ大丈夫。」
「時間ができたら作ろう。」
と思っているうちに、機会を失ってしまうこともあります。
元気な今だからこそ、将来への思いを形にしておくことが大切です。

遺言書には種類があります

遺言書には、主に次の2つがあります。

自筆証書遺言

ご自身で作成する遺言書です。
費用を抑えられるというメリットがありますが、法律上のルールに従って作成しなければ無効になる可能性があります。
また、紛失や改ざんのリスクもありますが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、こうしたリスクを軽減することができます。

公正証書遺言

公証人が作成する遺言書です。
費用はかかりますが、法律に沿って作成されるため無効になる可能性が低く、原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もほとんどありません。
障害のあるお子さんがいらっしゃるご家庭では、確実性という点からも、公正証書遺言をおすすめすることが多くあります。

遺言書だけですべてが解決するわけではありません

遺言書は、とても重要な備えです。
しかし、遺言書だけで親なきあと問題のすべてが解決するわけではありません。
例えば、
・財産を管理する人が必要な場合
・継続的な生活支援が必要な場合
・判断能力が低下した場合
には、成年後見制度や家族信託、生命保険など、他の制度を組み合わせた方がよいケースもあります。
つまり、遺言書は親なきあと対策の「出発点」であり、「土台」となるものです。

まずは「遺言を作るべきか」から相談してください

「まだ財産が少ないから。」
「家族が仲良しだから。」
「まだ元気だから。」
このような理由で遺言書を後回しにされる方は少なくありません。
しかし、障害のあるお子さんがいらっしゃるご家庭では、財産の多い少ないに関係なく、遺言書が果たす役割は非常に大きなものです。
「うちの場合は遺言書が必要なのだろうか。」
そう思われた時が、考え始めるタイミングです。

一人で悩まず、ご家庭に合った方法を専門家と一緒に検討することをおすすめします。

まとめ

遺言書は、単に財産を分けるための書類ではありません。
障害のあるお子さんが安心して暮らしていけるよう、親御さんの思いを未来へつなぐ大切なメッセージでもあります。
親御さんが元気な今だからこそ、ご家族の将来を見据えた準備を始めてください。

次回予告
第8回「負担付遺言・負担付遺贈とは ~兄弟姉妹へ『お願い』を形にする方法~」
「長男に財産を多く相続させる代わりに、障害のある弟の生活を支えてほしい。」
このような親御さんの思いを遺言で表す方法があります。
次回は、「負担付遺言・負担付遺贈」の仕組みやメリット、注意点について、わかりやすく解説します。