【親なきあと対策 第8回】 負担付遺言・負担付遺贈とは ~「財産を託す」とともに、「支えてほしい」という思いを形にする方法~
前回は、障害のあるお子さんがいらっしゃるご家庭では、遺言書が将来の安心につながる大切な備えであることをご紹介しました。
その中で、
「長男に多く財産を相続させる代わりに、障害のある弟の面倒を見てほしい。」
「娘に自宅を相続させるので、障害のある兄の生活を支えてほしい。」
このようなお考えを持たれる親御さんも少なくありません。
実は、このような親御さんの思いを遺言の中で表す方法があります。
それが「負担付遺言(ふたんつきゆいごん)」や「負担付遺贈(ふたんつきいぞう)」です。
今回は、その仕組みや活用方法、そして注意点についてご紹介します。
「負担付遺言」とは?
簡単に言えば、
「財産を受け取る代わりに、一定の役割や義務をお願いする遺言」です。
例えば、
「長男○○に自宅と預貯金を相続させる。ただし、長男は障害のある弟○○が安心して生活できるよう、毎月○万円を生活費として支給すること。」
あるいは、
「長女○○に全財産を相続させる。ただし、長女は弟○○の通院や福祉サービスの手続きについて、できる限り支援すること。」
このように、「財産を渡すこと」と「一定の負担(役割)」を組み合わせることができます。
「負担付遺贈」との違い
少し専門的になりますが、
・相続人に対して負担を付ける場合は「負担付遺言」
・相続人以外の人に財産を渡し、その代わりに負担をお願いする場合は「負担付遺贈」
と考えるとわかりやすいと思います。
実際には、ご家族のケースでは相続人に対してお願いすることが多いため、「負担付遺言」が活用される場面が多くなります。
どのような場面で活用できるのでしょうか
例えば、次のようなケースがあります。
ケース1 兄が弟を支える場合
障害のある次男と、長男がいるご家庭。
親御さんは、
「長男には負担をお願いすることになるので、その分、財産を多めに相続してほしい。」
と考えています。
そこで、
「長男に自宅と預貯金を相続させる代わりに、弟の生活を支援してほしい。」
という内容を遺言書に記載します。
ケース2 生活費を援助してもらう場合
障害のあるお子さんが、グループホームで生活する予定です。
親御さんは、
「毎月一定額の生活費を援助してほしい。」
と考えています。
その場合、
「毎月○万円を生活費として支払うこと。」
という内容を盛り込むことも考えられます。
ケース3 見守りをお願いしたい場合
財産の管理だけではなく、
・定期的に様子を見に行く
・困ったときには相談に乗る
・福祉サービスとの連絡に協力する
といった内容を希望される親御さんもいらっしゃいます。
ご家族の状況に応じて、どのような支援をお願いしたいのかを具体的に考えることが大切です。
負担の内容は、できるだけ具体的に
「弟の面倒を見ること。」
このような書き方では、何をどこまで行えばよいのかが分かりません。
そのため、
・毎月いくら支払うのか
・いつ支払うのか
・どのような支援をお願いするのか
など、できるだけ具体的に記載することが重要です。
内容が曖昧だと、後々トラブルになる可能性もあります。
ただし、負担付遺言にも限界があります
負担付遺言は、とても有効な方法ですが、「万能」ではありません。
例えば、
「毎月生活費を支払うこと。」
と遺言に書いてあっても、実際にその義務が長期間きちんと果たされるとは限りません。
また、
・兄弟姉妹が病気になった
・経済的に苦しくなった
・遠方へ転居した
など、状況が変わることもあります。
そのため、「遺言に書いたから絶対安心」というものではないことも理解しておく必要があります。
ご家族で十分に話し合うことが大切です
負担付遺言を作成する際に最も大切なのは、
「お願いする相手の理解を得ること」です。
親御さんだけが決めるのではなく、
「将来、このような支援をお願いしたいと思っている。」
ということを、あらかじめ兄弟姉妹やご家族と話し合っておくことが望ましいと言えます。
突然、遺言書を見て初めて知ることになると、戸惑いや負担感が生じることもあります。
親御さんの思いと、ご家族の気持ちを共有することが、円満な親なきあと対策につながります。
家族信託などを組み合わせた方がよい場合もあります
ご家庭によっては、
・財産を長期間管理する必要がある
・毎月決まった金額を生活費として渡したい
・将来の管理方法まで決めておきたい
というケースもあります。
そのような場合には、負担付遺言だけではなく、家族信託や生命保険、成年後見制度などを組み合わせた方が安心できることもあります。
大切なのは、「制度を選ぶこと」ではなく、「ご家庭に合った方法を選ぶこと」です。
まとめ
負担付遺言は、「財産を渡すこと」と「障害のあるお子さんを支えてほしい」という親御さんの願いを、一つの遺言書に込めることができる方法です。
ただし、遺言だけですべてを解決できるわけではありません。
お願いする内容を具体的にし、ご家族とも十分に話し合いながら、ご家庭に合った方法を考えることが大切です。
「親が安心して財産を託せること」と「支える家族が無理なく役割を果たせること」。
その両方を実現できるよう準備を進めてほしいと思います。
次回予告
第9回「家族信託という選択肢 ~親が元気なうちだからできる財産管理~」
「遺言書だけでは心配…。」
そんなご家庭で近年注目されているのが「家族信託」です。
次回は、家族信託とはどのような制度なのか、遺言書との違いや、障害のあるお子さんがいるご家庭で活用される理由について、わかりやすく解説します。
