【相続・遺言 第18回】遺留分と遺言 ~トラブルを防ぐための考え方~
「長男にすべて相続させたい」
「介護をしてくれた子に多く残したい」
「お世話になった人へ財産を渡したい」
このような希望を実現するために、遺言書を作成する方は多くいらっしゃいます。
しかし、遺言があれば必ずその通りになるとは限りません。
そこで重要になるのが 「遺留分(いりゅうぶん)」 という制度です。
今回は、相続トラブルでも特に多い
「遺留分」と「遺言」の関係について、具体例を交えながら分かりやすく解説します。
1.遺留分とは?
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分 のことです。
被相続人(亡くなった方)がどのような遺言を書いたとしても、一定の相続人には最低限の権利が認められています。
たとえば、
「全財産を長男に相続させる」
「全財産を第三者へ遺贈する」
という遺言を書いても、他の相続人がまったく何も受け取れなくなるわけではありません。
この最低保障が「遺留分」です。
2.なぜ遺留分制度があるのか
遺言は本来、本人の自由な意思を尊重する制度です。しかし、完全に自由にしてしまうと、
・長年連れ添った配偶者が生活できなくなる
・他の子どもが著しく不公平になる
・感情的対立が深刻化する
といった問題が起こります。
そのため法律は、近い家族については最低限の取り分を保護しています。
つまり遺留分制度は、
「残された家族の生活保障」と「極端な不公平の防止」を目的とした制度なのです。
3.遺留分が認められる人
遺留分があるのは、次の相続人です。
| 相続人 | 遺留分 |
| 配偶者 | あり |
| 子 | あり |
| 直系尊属(父母など) | あり |
| 兄弟姉妹 | なし |
ポイント
兄弟姉妹には遺留分がありません。
そのため、
「兄には相続させたくない」
「疎遠な弟には渡したくない」
という場合、遺言で排除しやすいのです。
4.遺留分はどれくらいあるの?
遺留分は、法定相続分の一定割合です。
大まかには次のようになります。
| 相続人 | 遺留分割合 |
| 配偶者・子がいる場合 | 法定相続分の1/2 |
| 直系尊属のみの場合 | 法定相続分の1/3 |
5.具体例で理解しましょう
事例① 長男にすべて相続させる遺言
【家族構成】
・妻
・長男
・次男
【財産】
預金 6,000万円
【遺言】
「全財産を長男に相続させる」
この場合、妻と次男には遺留分があります。
本来の法定相続分は、
・妻:1/2
・長男:1/4
・次男:1/4
です。
遺留分はその半分なので、
・妻:1/4
・次男:1/8
を請求できます。
金額にすると、
・妻:1,500万円
・次男:750万円
です。
つまり、遺言があっても、次男は「最低限の取り分」を主張できるのです。
6.遺留分侵害額請求とは?
以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、
現在は「遺留分侵害額請求」という制度になっています。
これは簡単にいうと、「不足分をお金で支払ってください」という請求です。
7.昔との違い
以前は、不動産そのものを共有状態にしてしまうケースが多くありました。
しかし現在は、
・原則として金銭請求
・不動産共有化を避けやすい
という制度になっています。
8.よくある相続トラブル
① 「介護したのは自分なのに」
長年親の介護をした子に多く残したいというケースは非常に多くあります。
しかし、他の兄弟からすると、
・「勝手に遺言を書かせたのでは」
・「不公平だ」
という不満が生まれやすくなります。
② 後妻と前妻の子の対立
再婚家庭では特にトラブルが増えます。
例:
・「全財産を後妻へ」
・「前妻の子には渡さない」
という遺言を書いても、前妻の子には遺留分があります。
感情的対立が深刻化しやすい典型例です。
③ 不動産しか財産がない
相続財産の大半が自宅の場合、
・遺留分を現金で払えない
・不動産を売却しなければならない
という問題が起こります。
これも非常に多いトラブルです。
9.遺留分トラブルを防ぐポイント
① 極端な偏りを避ける
「すべてを一人へ」という遺言は、争いの原因になりやすくなります。
多少差をつけるとしても、
・他の相続人にも一定配慮する
・理由を説明する
ことが重要です。
② 遺言に理由を書く
たとえば、
・長年介護してくれた
・事業を承継する
・生前に多額援助を受けている
など、理由を書くことで納得感が変わります。
法的効力そのものよりも、感情面で大きな意味があります。
③ 生前から話し合う
相続トラブルの多くは、
「知らなかった」
「聞いていない」
ことで起こります。
生前にある程度説明しておくだけでも、争いを防げることがあります。
④ 生命保険を活用する
不動産中心の相続では、
・遺留分対策用の現金
・納税資金
として生命保険を活用する方法があります。
これにより、不動産売却を避けやすくなります。
⑤ 専門家へ相談する
遺留分が関係する相続は、
・家族関係
・財産内容
・生前贈与
・不動産評価
などが複雑に絡みます。
「とりあえず遺言を書けば安心」とは限りません。
むしろ、内容によっては争いを大きくしてしまうこともあります。
そのため、
・遺言作成
・相続対策
・家族信託
・生前贈与
などを含め、総合的に考えることが大切です。
10.まとめ
遺言は、本人の想いを実現する大切な制度です。
しかし一方で、「遺留分」という家族の権利も法律で守られています。
そのため、
・ただ財産を偏らせるだけ
・感情に任せた内容
・説明のない遺言
は、相続争いにつながる可能性があります。
本当に大切なのは、
「残された家族がどう受け止めるか」
まで考えた相続対策です。
遺言を書く際は、
「法的に有効か」だけでなく、
「円満な相続につながるか」
という視点も非常に重要になります。
